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発達心理学会・質的心理学会合同シンポジウム「質的研究のガイドライン」(2-1)

-白梅学園大学・無藤隆教授がノートを公開

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※無藤 隆教授が、2019年3月14日木曜日にノートを公開しました。

発達心理学会・質的心理学会合同シンポジウム「質的研究のガイドライン」(2-1)

保育研究の立場から:コメント(無藤 隆)
質的研究、とりわけ保育実践などに示される実践についての研究あるいは実践者と研究者の協同による研究また実践者自身の研究などの多くは質的な方法を取る。そこからすると、質的研究は、多様な実践と多種にわたる研究パラダイムを受けて成り立つが故に、第一に一律のその質の保障の基準を立てることは難しいのではないか。だが、その質がきちんとしたものかどうかを読者(無論査読者を含む)に可能にするために必要な情報を含めるよう努力するという意味での基準はある程度成り立ちそうだ。だが、第二に、絶えずその基準を超えてあるいは逸れていくことを含めていくからこそ質的研究に新たな発見的意義があるのではないか。そして第三に実践研究はとりわけ実践者の実践的感覚や知恵を背景として評価しうる。それは困難だが、意味のある過程でもあろう。

その視点から、APAの新たな質的研究の投稿・審査規定を検討し、そこから日本の心理系・教育系・保育系の学術誌にとって意味ある実行すべきことを挙げておきたい。

(Levitt.H.M., B,Bmerg,J., Creswell,J.W., Frost D.M., Josselson,R., & Suarez-Orozcoo,C. (2018). Journal Article Standards for Qualitative Primary, Qualitive Meta-Analysis, and Mixed Methods in Psychology : The APA Publications and Communications Board Task Force Report. American Psychologist,73-1,26-46.)

同論文で挙げているいくつかの基準はもっともである。

現に質的研究が増えており、独自のジャーナルを持つばかりでなく、通常の多様な研究方法論を載せうるジャーナルへの投稿が増えているが、必ずしも質的研究の方法論に精通している査読社が審査しているとは限らず、しばしば誤解や一面的評価を行いやすい。

それは質的研究の方法論は古くからあるが、その方法が確立してきたのはこの数十年であり、多くの研究者がそのトレーニングを受けていないこと、そして質的方法論には多様なアプローチがあり、多くの質的研究者もそのわずかしか知らないことがある(ならディヴ、グラウンディッド・セオリー、現象学、批判的、論述的(discursive)、パフォーマティヴ、エスノグラフィック、同意法による質的研究、事例研究、心理自伝学、テーマ分析、さらに会社的、記述的、エピソード的、などなど様々なアプローチが有り、しかも相互に重なり合い、新たなもの作り出している。

そこで必要な第一は「透明性」である。データの収集、分析の方略を明示し、倫理的手順に従っていることを明らかにし、とりわけ研究者自身の立場の影響を明らかにする。

第二は文脈主義である。研究者の属する文脈、現象の生じ解釈される文脈、デーの元の文脈などを考慮し適切に記述しなければならない。

特に論文においては、信憑性が必要であり、それは方法的な誠実性(integrity)であり、主題への忠実性と研究目標の体制への有用性にある。

こういったことを考慮し、ここで提起しているマニュアルを導入すべきであろう。

その際2つのことが実際的に大事になる。

第一、質的研究の投稿枚数の制限を長くすることである。日本の多くの学術誌(私の知る範囲の心理系・教育系・保育系など)では、投稿規定でだいたい400字で40枚から50枚以内が多いようだ。だが、質的研究では、その中の方法は多様にあるせよ、どれもかなりのページ数を要する。400字で80枚から100枚くらいないとなかなか十全に説得的には書けないのではないか。

制約の結果、何が起こるか。第一はコーディングのやり方やカテゴリーの作り方、エピソードなどからの解釈、個人ごとの違いなどを大幅に簡略化する。ひどいと、修正グラツンディッドセオリーを使ったとだけあり、後は主な結果の図であったりする。カテゴリー(コード、などなど)への信頼性ないし透明性がほとんどないので、当てになるかどうかは分からない。個人の違いも無視することが多いので、例えば10人が対象だとして皆がその図のモデルを経験しているかのように記述する。もう一つは先行研究の言及を省くことだ。時に異様に先行研究が乏しい。内容面の研究も方法面の研究もだ。その結果として自分がファンである研究者だけ引用するとか派閥的になる。いずれにせよ、研究の蓄積にはつながらない。論文の質も改善されない。なお、枚数を増やすのが経費の関係で難しいなら、そういう部分をネット上に置く手もある。あるいは長い論文を希望する人が投稿できる電子ジャーナルを用意するとか。

※(2-2)に続く