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保育・幼児教育の論点(上) 低所得層の全⼊・無償化を(2-1)

-白梅学園大学大学院・特任教授無藤隆先生のFace Book拾い読み

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保育・幼児教育の論点(上) 低所得層の全⼊・無償化を
日本経済新聞2017年12⽉5⽇ 6:00

〈ポイント〉
○1〜2歳で認可保育所に通う効果⼤きい
○低所得層の幼児に認可保育の供給優先を
○財源捻出へ3〜5歳の全⾯無償化延期も
⽇本の保育・幼児教育について考えるとき、その効果をできるだけ客観的なデータで確認する必要がある。効果に関しては、(1)保育・幼児教育を受ける⼦どもたちにどんな効果があるのか(2)それを通じて⽇本社会全体にどんな⻑期マクロ効果があるのか(3)⼦どもたちを介さずにどんな短期マクロ効果があるのか――を分けて確認する必要がある。

◇ ◇
ここで最も重視すべきは(1)だ。保育・幼児教育の第⼀義的な⽬的は、⼦どもたちの健全な発達を⽀援することと、そのために親による適切な養育を⽀援することだからだ。現⾏の保育・幼児教育により、(1)で良い効果が確認できる、あるいは少なくとも悪い効果が確認できない場合にのみ、「質」を維持・改善させながら、同時に(2)や(3)の良い効果を狙って「量」を増やすことは望ましい政策となる。ただし、⼀部の認可保育所で保育⼠不⾜や幼児死亡事故が発⽣している現状では、⼈材確保と事故予防のための保育⼠の給与改善と労働環境改善は必要だ。それは結果的に質の改善にもつながる。
そこでまず(1)の⼦どもたちへの効果を確認してみよう。安梅勅江・筑波⼤教授らが2000年ごろから全国100園以上の認可保育所で実施した追跡調査によれば、1〜2歳の⼦どもを認可保育所に預けた親たち(約3700⼈)は、預けなかった親たち(約200⼈)と⽐べて、1年後に⼦どもをたたかなくなる確率が有意に⾼かった。親の経済状況などによる影響も含まれうるが、⼦どもを保育所に預けることで気分転換できたり、保育士の助⾔により養育⾏動が改善されたりして、たたく⾏動が減った可能性も考えられる。不適切な養育を受けると、愛着形成と⼦どもの⼼⾝の発達が阻害されることは、多くの調査から判明している。たたく⾏動が減ることは、⼦どもの発達が良好になることを意味する。
また⼭⼝慎太郎・東⼤准教授らは00年代以降の全国の2歳半と3歳半の幼児(約6万8千⼈)のデータを因果推論の⼿法で分析した。その結果、2歳半時に保育所に通っていた⽅が通っていない場合よりも、⾔語発達が良好(特に男児で顕著)で、特に⾼卒未満の⺟親では保育所を使っていた⽅が育児の知識と幸福感が良好であり不適切な養育⾏動が少なく、⼦どもの攻撃性と多動性が弱い傾向にあった。
このように⽇本での実証研究によれば、1〜2歳で認可保育所に通った⽅が通わない場合よりも、親の不適切養育リスクが軽減し、⼦どもの発達が良好になる傾向がある。従って少なくとも認可保育所では平均すれば良質な保育が提供されているとみなせるため、(2)や(3)のマクロ効果を狙って認可保育の量を増やすことは正当化できるだろう。

◇ ◇
次に(2)、すなわち(1)を介したマクロ効果を確認しよう。
(2)を確かめるには、保育・幼児教育を受けた⼦どもを就職後まで追跡した⻑期縦断データが必要だ。⽇本ではまだデータは得られていないが、⽶国では豊富だ。中でも特に効果が⼤きかった「ペリー就学前プロジェクト」は、1960年代の低所得家庭の3〜4歳児に良質な無償の保育・幼児教育と家庭訪問を提供したランダム化⽐較試験だ。
実施主体の財団によれば、40歳時点までの累積効果として、⼦どもがその後得られる⼿取り所得の増加総額は投資費⽤の3倍、⼦どもがその後政府財政に貢献した総額(犯罪関連費減少、税収増加、社会保障費減少など)は投資費⽤の実に13倍にのぼった。
同プロジェクトはなぜ⾼い投資効果を実現できたのか。その秘訣が分かれば、⽇本での保育・幼児教育の投資⽅針にとって参考になるだろう。
⽶国での低所得層を対象とした84の幼児ケアプログラムの教育効果を⽐較した研究によると、効果の⾼いプログラムの主な特徴は、第1に⽐較的古い時期に実施されたこと、第2に対象幼児数が少なかったことだ(図参照)。第1の点は、近年ほど低所得層の家庭養育環境(⺟親の学歴など)が改善してきたことと、低所得層の利⽤しやすい保育・幼児教育プログラムが充実してきたことから、プログラムを無償で追加供給することの教育効果が薄れてきていると考えられる。また第2の点は、対象幼児数が少なければ研究者が設計した良質なプログラムを綿密に実施しやすいためだと考えられる。
ここから⽇本への教訓を導ける。第1に親の育児負担と不適切養育リスクを軽減するための保育・幼児教育が最も不⾜している幼児に対して、公的に質の保証された認可保育を無償または安価で供給することが、マクロでみれば最も教育効果(およびその⻑期的結果としての経済的投資効果)が⾼いと考えられる。
⽇本で対象となるのは、低所得層の顕在的・潜在的待機児童および認可保育所で⼗分に提供できていない病児保育・夜間保育・障害児保育を要する幼児だ。ただし病児保育とともに、⼦どもが病気の際、親が柔軟に休めるようになるための働き⽅改⾰も必要だ。第2に認可保育の教育効果を維持・改善するには、専⾨家による質のチェックが必要だと考えられる。

※(2-2)に続く